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岐阜発!温泉博物館第18話 岐阜県の放射能泉は安全か?

放射能泉を自然湧出する白狐温泉の神明池

福島第一原子力発電所の悲惨な事故により、放射能に対する不安が拡がっています。そんな中で、温泉の「放射能泉は大丈夫なのか」といった声が聞かれるようになってきました。これまで放射能泉の効能を期待して入浴し続けてきた人たちにとって、これだけ放射能に対する危機感が叫ばれれば、放射能泉への不安が高まるのは当然です。
岐阜県の東濃地方は、全国有数の放射能泉地帯で、数多くの放射能泉が点在しています。
それらの温泉に誤った風評の矛先が向かないように、放射能や放射能泉について改めて見直してみたいと思います。

「放射能」とは、「放射性物質」が「放射線」を放出する性質(能力)のことです。放射性物質とは、放射性同位体など放射線を出す物質の総称です。放射性同位体は、放射線を放出しながら、最終的には安定な元素に変化します。例えば自然界に存在するウラン238の場合、トリウム、プロトアクチニウム、ラジウム、ラドン、ポロニウム、ビスマス、タリウムなどに変化する段階を経て、長時間かけて最終的に鉛になって安定します。放射性同位体などの放射性物質は、より安定な元素へ変化しようとする際に、粒子やエネルギーを原子外に放出しますが、これを放射線と呼んでいます。
放射線には、α線(原子核粒子を放出)、β線(電子を放出)、γ線(電磁波を放出)があります。放射線は高いエネルギーをもっていて、放射線のエネルギーは、最終的には熱エネルギーに変わります。この熱エネルギーを人為的に電気に変えようとする仕組みが原子力発電です。
放射線の線量の大きさは、シーベルト(Sv)という単位で表します。また、放射能の単位はベクレル(Bq)を用います。放射能は、「放射線を出す能力」なので、「1秒間に放射線を何回出すことができるか」で測定します。
放射性物質には、天然放射性核種と、原子力発電や原爆によって人工的に生じる人工放射性核種とがあります。人工放射性核種は天然放射性核種に比べて桁違いに放射能が強く、天然に存在するウラン238の1グラムあたりの放射能の強さが1万2000ベクレルであるのに対して、原子力発電で生じる人工放射性核種であるセシウム137の場合、3兆2000万ベクレル、同じく人工放射性核種であるヨウ素131の場合は4600兆ベクレルにも及びます。

岐阜県の東濃地方に分布する花崗岩などの岩石中や地下の間隙には、天然に存在するウラン238から壊変途中のラジウムや、ラジウムが壊変して生じる気体のラドン、トリウムが壊変してできる気体のトロンが存在しています。いずれも水に溶けやすい性質のため、地下水の中に容易に溶け込みます。こうして出来たものが東濃地方の放射能泉です。すなわち、温泉の中に含まれる放射性物質というのは、ラジウム、気体のラドン、気体のトロンなどです。しかし、ラドンは、壊変する前の親核種であるラジウムの平衡量より圧倒的に多く存在するため、実際に放射能泉に含まれる放射性成分の主流はラドンであると言えます。東濃地方だけでなく、国内各所に「○○ラジウム温泉」という名称の温泉がありますが、成分として実際に含まれているのは固体のラジウムではなく、気体のラドンである場合がほとんどです。
わが国の温泉法では、放射性物質の場合は、温泉水1キログラム中、ラドンを74ベクレル以上含むか、ラジウム塩を100百億分の1ミリグラム以上含むものを温泉としており、さらに、環境省による『鉱泉分析法指針』では、温泉法で規定された温泉のうち、特殊成分としてのラドンを111ベクレル以上含むものを放射能泉または含放射能泉と規定しています。放射能泉を規定する放射性物質にトロンが含まれていないのは、トロンは存在量そのものが少なく、しかも短い期間でなくなってしまうため、温泉の主成分としてはあまり一般的とは言えないからです。

東濃地方に代表される放射能泉は、ラドンを含んだ温泉であり、放射能を有します。しかし、温泉に含まれるラドンの規定量は非常に小さな値であり、しかも、気体であるラドンが呼吸によって体内に入っても、ラドンの生物学的半減期が約40分ほどであるため、3時間もすれば体外に排出されると考えられます。したがって、量的に見ても、ラドンの半減期の特性からみても、「放射能泉」に正しく入浴することが身体に悪影響をおよぼすとは考えにくいです。すぐれた効能を期待しながら、安心して入浴ができます。

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