トップページ > 岐阜発!温泉博物館 > 第13話 様々な温泉の色

トピックス

岐阜発!温泉博物館第13話 様々な温泉の色

 温泉の湯の色は様々です。無色透明、乳白色、灰色、黒色、茶色、赤色、青色、緑色など実に多彩です。また、同じ温泉であっても、日によって色が変化する事例も知られています。温泉にはなぜいろいろな色のものがあるのでしょうか。

(1) 温泉の色のメカニズム

無色透明であるはずの水が、川の深い所では緑色に見えたり、浜辺から眺める海がブルーに見えたりするように、水の色は太陽から注がれた光の吸収や散乱といった現象によって起こるものです。
温泉の色も基本的にはこのようなメカニズムが関わっており、温泉の成分として含まれるイオンやその他の物質によって光が吸収されて色を呈したり、コロイド粒子という非常に小さな粒子が存在することにより光が散乱して色を呈したりします。さらには、比較的大きな含有物質(火山泥など)や沈殿物(いわゆる湯の華)などのけんだく縣濁により色(にごり)が生じることもあります。
太陽の光のうち、私たちの目に見えるのは波長が380nm~780nmの間の可視光線と呼ばれる部分です。

 可視光線のうち、波長の短いものは紫から青色に見え、波長の長いも のは赤色に見えます。可視光線のすべての波長の光が同じ強さで混じると白色に見えます。仮に温泉中に青色の波長の光だけを散乱させる粒子があれば、他の長い波長の光は透過し青色の波長の光だけが散乱して(レイリー散乱)、私たちの目に飛び込んで来ます。温泉中にすべての波長の光を散乱させる大きな粒子が存在すれば、すべての波長の光が散乱して(ミー散乱)、白色に見えます。
また、温泉中で特定の色の光が吸収されると、温泉は残りの光が混じり合った色に見えます。

(2) 乳白色の温泉

乳白色の温泉は、そのほとんどが地中から湧き出したばかりは無色透明です。湧き出した後、空気と触れることによって乳白色へと変化します。これは、温泉の成分として含まれる硫化水素が空気中の酸素によって酸化されて、水に溶けにくい硫黄が硫黄コロイドという微粒子の形で生じ、その結果、太陽光が硫黄コロイドの微粒子によってミー散乱を起こし、すべての波長の光が散乱して私たちの目に飛び込んでくるために白色に見えます。
硫化水素から個体の硫黄が生成される化学反応式は次のようです。

 乳白色の温泉も、浴槽の湯が交換されて新湯(源泉)が注がれたばかりのときには十分に白濁していないこともあります。

乳白色になることがある平湯温泉「ひらゆの森」 乳白色の温泉(秋田県乳頭温泉)

(3) 青色の温泉

珪酸を多く含むいくつかの青色の温泉について、京都大学の大沢博士らの研究グループにより、青色を呈するメカニズムが明らかにされました。
グループが調べた青色の温泉は、湧き出したばかりは無色透明で、2~3日後に青色になり、一週間ぐらい後に乳白色に変化します。
珪酸の小さな粒子同士が時間の経過とともに脱水縮合という反応を起こして大きく成長し、太陽光は波長の短い青色の光だけを散乱させるレイリー散乱を起こすため、散乱して私たちの目に飛び込む青色の波長の光によって温泉が青色に見えます。しばらく時間が経過するとさらに珪酸の粒子が脱水縮合を繰り返して大きく成長するため、太陽光は全波長の光が散乱するミー散乱を起こし、私たちの目に白い光が飛び込んでくるたるに、温泉が乳白色に見えます。
この他にも青色を呈する温泉はいくつかありますが、発色のメカニズムがよくわかっていないものもあります。


青色の温泉(大分県別府いちのいで温泉)

(4) 茶色の温泉

茶色に濁る温泉のほとんどは鉄分を含む含鉄泉です。地中より湧き出したばかりは無色透明ですが、温泉が地上に湧き出すと、空気中の酸素に触れるため、イオンとして溶け込んでいた鉄分が酸化されて茶色い沈殿物を生じます。この沈殿物(析出物)の懸濁により茶色く濁ります。
温泉には鉄分が含まれていることが少なくないため、ごく少量の鉄分も酸化によって茶色くなります。このため、うっすらと茶褐色の色をした温泉は全国にたくさん存在します。

茶色い温泉(下呂市下島温泉) 茶色い温泉(岐阜市三田洞神仏温泉)

(5) 黒色の温泉

東京周辺に多く見られる「くろゆ黒湯」と呼ばれる黒色の温泉は、太古の腐植質を含む地層から採取され、腐植質起源のフミン酸を含んでいます。フミン酸とは、植物が微生物によって分解されてできる最終の生成物で、土の中でアルカリに溶け酸で沈殿する有機物です。
温泉中にフミン酸が含まれると、フミン酸が可視光線を吸収するために黒色に見えます。
北海道の十勝地方には、通称“モール泉”と呼ばれる透明感のある黒褐色の温泉があります。「モール」とはドイツ語のMoor(泥炭土)に由来するもので、この温泉も東京周辺の黒湯と同じく、温泉に含まれるフミン酸が光を吸収することにより生じます。
その他に、硫化水素型の硫黄泉などで、温泉水中の硫化水素が鉄と化合して黒色の硫化鉄を析出させ、“湯の華”や沈殿物として温泉の中に混じ黒色の懸濁を生じることがあります。栃木県の塩原元湯温泉の“すみゆ墨湯”などがその例です。同じように、長野県の五色温泉や宮城県の川渡温泉、和歌山県の勝浦温泉など多くの温泉で黒色の“湯の華”の生成が知られており、“湯の華”の量が多いときや浴槽がかくはん撹拌されたときなど、温泉が灰色に見えることがあります。

黒色の温泉(東京都麻布十番温泉) 黒色の温泉(栃木県塩原元湯温泉)

(6) 緑色の温泉

岩手県の国見温泉や長野県の熊の湯温泉などは、温泉が鮮やかな緑色をしています。このような温泉が緑色を呈するメカニズムは明らかになっていませんが、共通点として中性で硫化水素の量が多いことが指摘されています(第17話にて新知見を掲載)。
また、温泉中に存在するクロレラなどの藻類(微生物)が太陽の光を受けて増殖し、温泉が緑色に見えることもあります。

緑色の温泉(岩手県国見温泉) 緑色の温泉(長野県熊の湯温泉)

(7) 色の変化する温泉

乳白色の温泉や青色の温泉の所でも触れましたように、温泉の色は常に一定しているとは限りません。新鮮な源泉が注がれてからの時間の経過や天候、降水などによる地下水位の変化などによって温泉の色が変化する例が知られています。中には、地震の発生後に色が変化した例も報告されています。
和歌山県の湯の峰温泉の共同浴場“つぼ湯”は、色の変化の言い伝えが伝承される温泉で、現在も乳白色~乳青色などの色の変化が認められます。
“つぼ湯”の場合は、浴槽から源泉が直に湧いており、地中で不安定な状態で存在していた温泉水が、地表へ出たとたんに地表の環境のもとで安定化の方向へ化学的に変化するため、光の散乱の状態が変化し、その結果色が変化すると考えられます。
時間の経過と共に色が変化する温泉は、いずれも地中から湧き出したばかりの新鮮な源泉が直接ないしすぐに浴槽に注がれる所がほとんどで、特に浴槽の底から直に源泉が湧き出すような温泉で多く見られます。
長野県の五色温泉も色の変化で知られている温泉ですが、温泉の横を流れる川の水位の変化によっても温泉の色が変化することが知られています。
和歌山県の雲取温泉は、2004年に発生した紀伊半島沖地震の後、これまで薄かった温泉の色が濃くなった(乳白色に変化した)と新聞で大きく報じられました。

色が変化する温泉(和歌山県湯の峰温泉) 色が変化する温泉(長野県五色温泉)

ページトップへ戻る