トップページ > 岐阜発!温泉博物館 > 第6話 温泉に含まれる成分の沈殿物“温泉華”

トピックス

岐阜発!温泉博物館第6話 温泉に含まれる成分の沈殿物“温泉華”

 温泉水に含まれている様々な成分は、湧き出した後の急激な温度や圧力の低下、二酸化炭素の放出、空気との接触による酸化、pHの変化などによって容易に析出(沈殿)します。このように、温泉水に含まれている成分が析出してできる沈殿物を総称して温泉華と言います。
温泉の浴槽の中で見かけるいわゆる“湯の華”も温泉華の一種であり、温泉の中に含まれていた硫黄などの成分が析出したものです。また、浴槽の内側や温泉水が通るパイプの内側に沈着するスケールと呼ばれる付着物(湯あか)も温泉成分が析出してできる温泉華の一種です。
温泉に含まれる成分は多様であり、含まれる成分の違いにより、さまざまなな種類の温泉華ができあがります。温泉華を構成する主成分の違いにより、珪華、石灰華、硫黄華、鉄華(褐鉄華)、硫酸塩華などに分類されます。

(1) 硫酸塩華
硫酸カルシウム(石膏)、硫酸ナトリウム(芒硝)、硫酸バリウム(重晶石)などの硫酸塩を主成分とする温泉沈殿物(温泉華)を特に硫酸塩華と呼びます。
秋田県玉川温泉の大噴泉源より湧出する温泉水からは、硫酸バリウムと硫酸鉛が固溶体を成す北投石という硫酸塩華が生成されています。北投石は微量のラジウムを含んでおり、放射性を示すことでも知られています。世界中で台湾の北投温泉と秋田県の玉川温泉の2ヶ所のみでしか産出しない大変希少な温泉沈殿物で、温泉からできる“温泉鉱物”の代表格です。玉川温泉産の北投石は昭和27年に国の特別天然記念物に指定されています。また、台湾の北投温泉産の北投石も台湾において天然記念物に指定されています。

玉川温泉産北投石(佐々木信行氏提供) 台湾北投温泉産北投石(佐々木信行氏提供)

(2) 珪華
温泉中に含まれている珪酸を主成分とする温泉沈殿物(温泉華)を珪華(ケイカ)と言います。これは温泉水中に含まれるメタ珪酸(H2SiO3)と呼ばれる溶存珪酸(水に溶け込んでいる珪酸)が析出して沈殿してできるものです。
青森県の恐山、秋田県の秋ノ宮温泉、大分県鉄輪温泉の白池地獄など、珪華を生成する温泉地は全国各地にたくさんあります。
秋田県秋ノ宮温泉からは魚卵状の珪華である“状珪石(じじょうけいせき)”を産出します。これは、魚卵状のオパールや玉髄の球体が集まってできためずらしい珪華(ぎょくずい)で、姿がハタハタという魚の卵(ブリコ)に似ていることから“ブリコ石”とも呼ばれます。国の天然記念物に指定されています。また、富山県立山温泉新湯からは、温泉中の珪酸が透明な魚卵状のオパールとなって沈殿した玉滴石(ぎょくてきせき)と呼ばれる珪華を産出することで知られています。


大分県別府鉄輪温泉産の珪華
下呂発温泉博物館蔵

(3) 石灰華
炭酸カルシウムからなる温泉沈殿物を石灰華と言います。温泉沈殿物の中で最もごく普通に見られるものです。温泉水を運ぶ引湯パイプの内側や浴槽に沈着するスケールの多くがこの石灰華です。

引湯パイプに付着した石灰華のスケール 浴槽に付着した石灰華

(3) 石灰華
地下で二酸化炭素とともに炭酸水素イオン(HCO3-)とカルシウムイオン(Ca2+)を溶かし込んだ温泉水は、地表に湧き出す際に減圧して二酸化炭素が空気中に逃げるために、炭酸カルシウムとなって沈殿します。その化学反応式は次のようです。

Ca2 + 2HCO3 CaCO3 + H2O + CO2
カルシウムイオン   炭酸水素イオン   炭酸カルシウム   水   二酸化炭素

炭酸水素イオンやカルシウムイオンを含む温泉が地表に自然湧出しているような所では、上のような反応が起きて、炭酸カルシウムの沈殿物(石灰華)が生成され続けるので、湧出孔周辺には大量の石灰華が堆積します。
石川県の岩間温泉には、川沿いに無数の自然湧出泉源が存在し、大量の温泉が湧き出しています。それぞれの湧出孔付近には温泉の沈殿物である石灰華が塔状に堆積し、その頂部から熱湯を噴き出しています。このような、温泉の湧出孔を有する石灰華の搭状堆積物を噴泉塔と言います。温泉成分によって石灰華が上に向かって堆積し続けるために、湧出孔の位置も徐々に高くなっていきます。
岩間温泉には大小無数の噴泉塔があり、大きいものは2m以上にも達します。噴泉塔群として国の特別天然記念物に指定されています。
岩手県の夏油温泉では、夏油川岸の斜面より温泉が湧出し、川底までの間にドーム状の石灰華(石灰華ドーム)が形成されました。その様相が天狗のように見えることから天狗岩と呼ばれています。石灰華ドームの高さが17.6mあり、温泉が自然湧出する場所にできた石灰華堆積物としては大きいため、国の天然記念物に指定されています。
岐阜県の濁河温泉付近には温泉が自然湧出している場所も少なくなく、小規模な温泉華が至る所で見られます。このうち材木滝右岸には全長20mほどの棚田状の石灰華ドームが見られます。あまり知られていませんが、国の天然記念物に指定されている他の石灰華堆積物と比べても決して見劣りしません。
屋外で石灰華が形成されつつあるような場所では、年に一回、秋になると木の葉が舞い落ちて、炭酸カルシウムの沈殿物によってコーティングされ、硬く固まってまるで化石のようになっていることがあります。温泉地ではこれを「木の葉石」とか「木の葉化石」などと呼んでいることがあります。もちろん本当の化石ではありません。
木の葉石を産する新平湯温泉の大規模な石灰華堆積物は、石灰華の年代測定により、およそ奈良時代頃に堆積したものであることが明らかになっています。

石川県岩間温泉の石灰華の噴泉塔 岩手県夏油温泉の石灰華ドーム

(4) 硫黄華
温泉に含まれている硫黄の成分が沈殿したものを硫黄華と言います。特に火山の噴気地帯やその周辺の温泉に多く見られます。
硫化水素を多く含む硫黄泉(硫化水素型)や含硫黄泉(硫化水素型)では、温泉が地表へ湧き出すと、温泉水中の硫化水素(気体)が空気中の酸素によって酸化され、固体の硫黄となって析出し、硫黄華を形成します。

2H2S + O2 2S ↓ + 2H20
硫化水素 酸素   硫黄

硫黄泉(硫化水素型)で満たされた浴槽を注意深く観察すると、温泉の表面の空気と接触している部分で硫化水素の酸化が促進され、それによって生成された細かい硫黄が表面に浮いて膜状の薄層を成している様子が観察できることがあります。表面に形成された膜状の硫黄は、温泉が撹拌されることによって浴槽の底に沈殿します。
硫黄泉などに入浴すると、浴槽の中に白くて細長い“湯の華”が舞っているのを見かけることがあります。この“湯の華”の多くは、温泉中に含まれる硫化水素から固体の硫黄ができて析出した硫黄華です。
青森県の恐山にある宇曽利湖では、湖に流入する温泉水から黄色い硫黄の沈殿が生じ、湖底に硫黄華を生成している様子が観察できます。
温泉水に含まれる成分が沈殿してできる硫黄華の他に、火山ガスの中に含まれる硫化水素などが昇華して硫黄となって析出する硫黄華も存在します。火山やその周辺に見られる噴気地帯では、噴気孔から火山ガスや水蒸気などが勢いよく噴出しています。噴気孔に近づいてみると、硫黄の昇華によって生じた鮮やかな黄色をした硫黄が付着して硫黄華を形成していることがあります。
富山県立山地獄谷の噴気地帯には、噴気孔周辺に堆積し続けた硫黄が高く積み重なり、噴気塔と呼ばれる2mを越える高さの硫黄華を形成しています。
火山周辺の噴気地帯では、温泉や火山ガスから析出した純度の高い硫黄が硫黄華となって堆積しており、かつては硫黄鉱山として硫黄を採掘していた所も少なくありません。岩手県の松尾鉱山、群馬県草津温泉の万代鉱、群馬県万座温泉の小串硫黄鉱山、秋田県の川原毛地獄の川原毛硫黄鉱山などがよく知られています。

噴気孔周辺に付着した硫黄華 硫黄が堆積してできた噴気塔

(5) 褐鉄華
温泉水中に含まれる鉄分が褐鉄鉱(針鉄鉱)となって析出してできる沈殿物を褐鉄華と呼びます。茶色の沈殿物ですので目立ちやすく、自然の中では褐鉄華の存在で温泉が湧出していることがよくわかります。
岐阜県白川村の大白川地獄谷では、温泉が湧出する部分で褐鉄華が生成され、谷の礫が茶色に染められています。また、その下流では、褐鉄鉱が谷の小さな礫同士を固め、“鬼板”と呼ばれる板状の褐鉄華を形成しています。

大白川地獄谷の礫に付着した褐鉄華

ページトップへ戻る