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岐阜発!温泉博物館第3話 あたたかい温泉が湧き出すしくみ

 地下であたたかい温泉ができあがるためには、「地下に何らかの水が豊富に存在すること」、「地下の水が何かの熱によって温められること」、「地下の水に何らかの成分が溶け込むこと」が必要です。
さらに、地下でそのようにしてできあがった温泉が地上に湧き出すためには、地下から地上につながる「断層などの通り道」が必要です。最近は1000m以上掘削して(大深度掘削)動力で温泉を汲み上げることが多く、そのような場合には掘削した穴が温泉の通り道になります。
温泉には、火山地帯やその周辺で湧く「火山性の温泉」と、火山の全く存在しない地域から湧く「非火山性の温泉」があります。

(1) 火山性の温泉が湧き出すしくみ

図1は、火山性の温泉が湧き出すしくみの一例を簡単な模式図で表したものです。

図1 火山性の温泉が湧き出すしくみの一例

図1 火山性の温泉が湧き出すしくみの一例

 火山の地下数㎞から十数㎞の所にはマグマだまりが存在しています。マグマだまりには高温(およそ800℃~1200℃)のマグマや、マグマから分離した高温の熱水や高温高圧の火山ガス、水蒸気などが含まれていて、断層のような割れ目などの弱い部分を伝って常に地上へ出ようとしています。
地下の帯水層と呼ばれる水を蓄えやすい地層や、岩石中に存在する断層などのさまざまな割れ目には、雨水などがしみ込んでできた地下水がたまります。マグマだまりの中の高温の熱水や火山ガスなどが帯水層や割れ目の中の地下水に接触すると、熱水や火山ガスから熱や様々な含有成分が地下水の中に置き換わり、高温の温泉水ができあがります。
地下水が熱水やガスなどに接触しない場合でも、マグマなどの熱源から熱が伝わり(伝導し) 、地下水などが温められる場合もあります。
高温の温泉水は地下水などに比べると軽いため、断層などの割れ目を通って上の方へ上がっていきます。ちょうどコンロで温められている鍋の中の水が対流を引き起こすように、マグマの熱源により地下で水の対流が起こるわけです。したがって、断層などの割れ目がたまたま地上までつながっていれば、温泉水は地上に自然湧出することになります。また、地下の“温泉水”を蓄える割れ目までボーリングをすれば、地下深くから高温の温泉水を得ることができる場合もあります。
岐阜県内のこのような火山性の温泉は、平湯温泉、新平湯温泉、福地温泉、栃尾温泉、新穂高温泉、濁河温泉、大白川温泉、大白川温泉から引湯している平瀬温泉などです。
この他にも、地下に存在する火成岩の高温岩体からの熱の伝導によって地下水があたためられる場合もあります。目立った活動的な火山が存在しないような所でも、地下に古い時代の火山起源の高温の岩体が存在していれば、その熱の伝導によって地下水が温められ比較的高温の温泉水ができあがる例が知られています。
下呂温泉の熱源については、はっきりとはわかっていませんが、御嶽火山より極めて近くに存在する湯ヶ峰火山岩体(今からおよそ10万年前に噴出したと考えられている)が地中で完全に冷え切っておらずに下呂温泉の熱源となっている可能性が示唆されています。

焼岳火山が熱源と考えられる平湯温泉 湯ヶ峰火山が熱源と考えられる下呂温泉
火山性の温泉の長崎県雲仙温泉 火山性の温泉の神奈川県大涌谷温泉

(2) 非火山性の温泉が湧き出すしくみ

1. 大深度掘削によって得られる温泉

最近次々と誕生する新しい温泉施設の多くは、火山などと全く無縁の山間部や平野部などにあります。便利な都市の中心部にもこのような温泉が目立つようになりました。
このような温泉では、なぜ、井戸水と違った比較的高温の温泉水が得られるのでしょうか。

図2 非火山性(大深度掘削による)温泉が湧き出すしくみの一例

一般的に、地下へ100m深くなると温度がおおよそ3℃(平均値)高くなることが知られています。これを地下増温率又は地温勾配と言います。新しく誕生する非火山性の温泉のほとんどがこの地下増温率によるもので、多くの温泉は1500m前後掘削して、地下深くに貯えられている地下増温率によって温められた温泉水(深層熱水)をくみ出しています。
ただし、どこでも掘削すれば高温の深層熱水が得られるかというとそうでもなく、地下に豊富な地下水が貯えられていることが不可欠です。
図2のように、100m深くなる毎に温度が約3℃上昇するので、1500m前後掘れば理論的には地上での水温+45℃ぐらい高温の温泉が期待できそうなのです。しかし、深層熱水が地上まで上がってくるうちに温度が低下するので、42℃以上の高温泉が湧出する例はそれほど多くありません。
濃尾平野南西部の木曽三川の河口周辺には大深度掘削による温泉がたくさんありますが、42℃以上の高温泉が湧出している所が多く、中には60℃前後の温泉もあります。地下水が豊富で、湧出量も多いのが特徴です。

大深度掘削で高温泉が湧く海津温泉 木曽川河口で高温泉が湧く三重県木曽岬温泉
2.化石海水を汲み上げる温泉

地下の地層の中には、地層が堆積するときに閉じこめられた太古の海水が存在することがあります。これはいわゆる“化石海水”と呼ばれるものです。
非火山性の温泉の中には、大深度掘削によって地下の化石海水を汲み上げている所もあります。このような温泉では、海から遠く離れた火山のない場所にも関わらず、塩辛いナトリウム-塩化物泉(食塩泉)が湧き出しています。


化石海水起源の根尾うすずみ温泉

3.熱源が明らかでなかった高温の温泉

紀伊半島には火山が一つも存在しないにもかかわらず、白浜温泉、勝浦温泉、湯の峰温泉などをはじめ、多くの高温泉(泉温が42℃以上の温泉)の存在が知られています。中には100℃近い泉温の温泉を湧出する所もあります。
これらの高温泉の熱源についてはよくわかっていませんでした。紀伊半島南部の三重県と和歌山県の県境付近に、熊野酸性岩という第三紀の火成岩体が存在していることから、「その岩体がまだ完全に冷え切っておらず、温泉の熱源となっているのではないか」と考えられていました。しかし一方では、この火成岩体が今から1200万年前のものであることがわかっており、「熱源として考えるには古すぎる」という見解もありました。
兵庫県の有馬温泉も、近くに火山が全くありませんが100℃近い高温泉が湧出して、その熱源がよくわかっていませんでした。最近になって、産業技術総合研究所の研究により、有馬温泉の温泉水が、日本列島の下にもぐり込むフィリピン海プレートを構成する岩石からの脱水作用で発生した高温の熱水に由来するものであることが発表され、新聞で報じられました。
同様に、紀伊半島や大分県の高温泉についても、それぞれ西村進氏や網田和宏氏らのグループによって、フィリピン海プレートの脱水作用に由来するものであることを示唆する報告がなされています。
海底付近でプレートが生まれるとき、同時に海水がたくさん取り込まれています。フィリピン海プレートが日本列島の下に深くもぐり込むにつれて高い圧力がかかるために、プレートの岩石から脱水が起こるというものです。岩石の脱水によって発生する“水”は数100℃という高温の熱水であり、地下100㎞程で熱水が発生すると上昇して上部にあるマントルの岩石を溶かしてマグマができます。しかし、有馬温泉などの起源となっている熱水は、地下40㎞~80㎞という浅い部分で発生しているため、マグマを生成せず、熱水のまま地上に向かって上昇したと考えられます。プレートで発生した数100℃という熱水は、地上に湧き出すまでの間に地下水と一緒になって温度が低下し、温泉水となります。

兵庫県有馬温泉の泉源 和歌山県白浜温泉の泉源

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