01 岐阜県の地形と温泉
「飛山濃水」の言葉に表現されるように、岐阜県は高い山々が連なる飛騨地方と、木曽三川が集まる平野やその周辺に広がる低山地帯の美濃地方からなります。これは県土が北部から南部へと標高が下がっていく地形構造を示していますが、飛騨、美濃の括りを外してみると、地形的には「県北部の飛騨山地」、「中央部の南飛騨、中濃、東濃の山地」、「南部の濃尾平野や西濃の山地」に大きく区分されます。
本来、温泉は自然現象の一つであり、地形や地質の影響を受けて誕生します。県内において、かつて高温の温泉の自然湧出が見られたのは、火山地帯や火山岩体を有する飛騨山地や南飛騨の山地に限られていました。その他の山地や丘陵地からも湧出が見られましたが、湧き水のように湧く冷鉱泉がほとんどでした。また、堆積層の厚い濃尾平野の低地からは温泉の湧出は見られませんでした。地下深くから地上への温泉の通り道ができにくいためだと思われます。
02 自然湧出から掘削へ
掘削技術が発展した現在では、地形区分に支配されることなく、県内の至る所から温泉が採取されています。県内では自然湧出する温泉をそのまま浴用等に利用できるような温泉地は稀であり、ほとんどが地温勾配(地下増温率)の大きさに応じた深度の掘削を行い、温泉水を採取しています。例えば、近年、奥飛騨温泉郷平湯温泉の泉源では150m、下呂温泉の新泉源では430m、濃尾平野の海津温泉では1400mの掘削が行われ、温泉が採取されています。掘削する深さの違いは、地下の熱源の状況を反映しています。長良川温泉として使用されている三田洞神仏温泉のように、水道用の井戸を掘削したら温泉が湧き出したという、熱源に関係ない浅い掘削泉源も存在しています。
03 数字で見る岐阜県の温泉
環境省による最新データである令和7年3月末現在、県内の31市町村に、506の泉源(登録泉源)が存在しています。これらの温泉地を地図上に表記すると、岐阜県をほぼまんべんなく網羅しています。
ところが、50℃以上の高温の温泉が湧く温泉を見てみますと、焼岳周辺の奥飛騨温泉郷、白山周辺の大白川温泉(平瀬温泉)、御嶽山周辺の濁河温泉、火山岩体が存在する下呂温泉の4地域に限られています。いずれも飛騨地域の火山に関係した温泉です。濃尾平野においては、三重県の長島温泉や愛知県の尾張温泉などで1500m前後の大深度掘削により50℃を超える温泉が湧出していますが、岐阜県内では50℃まで達していません。
ここで再び環境省のデータを見てみますと、県内の506の登録泉源のうち、42℃以上の高温泉は163、42℃未満の温泉は316で、その他として新穂高温泉の中尾地区や大白川温泉のような「水蒸気の泉源」などが存在しています。温泉法では、高温の蒸気に水を通して造成したものも「温泉」として認められています。
県全体の温泉の総湧出量は68,270 L/分で、これは1分間にドラム缶341本分が湧き出している計算になります。1日あたりの湧出量は約98,309tになり、ドラム缶49万本以上に及びます。もっと言えば、大阪の海遊館のジンベイザメの泳ぐ巨大水槽の18個分ぐらいです。毎日毎日、想像がつかないほどの大量の温泉水が地下から地上に湧き出しているわけです。
04 岐阜県の泉質
岐阜県の温泉の泉質を見ますと、一番多いのが「単純温泉」で、全体の約4分の1を占めています。続いて「ナトリウム-炭酸水素塩泉」、「単純放射能泉」、「アルカリ性単純温泉」という順になっています。全国的な傾向と比較すると、岐阜県の温泉の特徴は、
- ①ナトリウム-炭酸水素塩泉(重曹泉)や重曹を主とするアルカリ性単純温泉が多い
- ②放射能泉が多い
- ③酸性泉が存在しない
- ④硫酸塩泉が極めて少ない
- ⑤ナトリウム-塩化物泉(食塩泉)が少ない
などが挙げられます。
ナトリウム-炭酸水素塩泉(重曹泉)や重曹成分を多く含んだアルカリ性単純温泉の多くは入浴により「つるつる感が得られる」温泉であり、県内にいわゆる「美人の湯」と言われる温泉が多い所以となっています。特に、近年の大深度掘削によって得られる温泉は、地下の石灰岩の存在や、岩石との接触時間が長いことなどの影響で「つるつる感が得られる」温泉になりやすく、県内に「美人の湯」が急増することになりました。身近な温泉で手軽に「美人の湯」を楽しむことができるのも、岐阜県ならではの特権です。
東濃地方には花崗岩が広く分布しており、そのほぼ全域に放射能泉が数多く存在しています。全国的に見てもわが国有数の放射能泉エリアとして知られています。花崗岩中に微量に存在する放射性物質のラジウム(鉱物)が壊変すると気体のラドンになり、これが地下水中に溶け込んでできた温泉です。ちなみに、放射能泉の主成分である天然ラドンは、原発事故で話題になったような人工の放射性物質とは違って放射線量もけた違いに少なく、人体への悪影響はありません。
酸性泉は火山ガスが溶け込んでできるもので、火山地帯に多く見られます。県内でも火山性の温泉は存在していますが、酸性泉は存在していません。含二酸化炭素泉の湯屋温泉の一部に、炭酸ガスが多く含有することによって弱酸性を呈する温泉がありますが、酸性の領域には至っていません。白川村大白川の熱水変質帯において自然湧出する火山性の温泉でもpH4.3~6で、いずれも弱酸性でした。
表 岐阜県の温泉の状況
| 泉源の数(登録泉源) | 506 |
|---|---|
| 県全体の1分間当たりの総湧出量 | 68,270 L/分(ドラム缶約341本分) |
| 県全体の1日当たりの総湧出量 | 98,309 t/日(ドラム缶約49万1545本分) |
| 岐阜県に多い泉質ベスト5 | 1位‥単純温泉 2位‥ナトリウム―炭酸水素塩泉 3位‥単純放射能泉 4位‥アルカリ性単純温泉 5位‥ナトリウム―塩化物泉 |
| 少ない泉質 | 酸性泉(存在しない)、硫酸塩泉(濁河温泉の一部のみ) |
| 50℃以上の温泉 | 奥飛騨温泉郷、下呂温泉、濁河温泉、大白川温泉(平瀬温泉) |
| 泉温ごとの数 | 25℃未満153 / 25℃以上42℃未満163 / 42℃以上163 / その他水蒸気等 |
| 国民保養温泉地 | 奥飛騨温泉郷(新穂高温泉、平湯温泉、新平湯温泉、福地温泉、栃尾温泉) 白川郷平瀬温泉(平瀬温泉) 小坂温泉郷(湯屋温泉、下島温泉、濁河温泉) |
| 温泉のある市町村数 | 31 |
| 宿泊施設のある温泉地数 | 55 |
(「環境省自然環境局令和6年温泉利用状況」等をもとに作成)
「岐阜県内で一番いい温泉はどこですか」と、よく聞かれます。もちろん私にも好みの温泉はありますが、温泉の色、香り、湯の華、まわりの風景などが演出する魅力はまさに「十湯十色」です。いろいろな温泉にチャレンジされ、自分好みの「一湯」を見つけられてはいかがでしょうか。
岐阜の大地に、今日もいい湯が湧いています!
文献
・環境省自然環境局(2026):令和6年温泉利用状況,環境省HP(2026年7月閲覧)
・寺尾 宏(2002):岐阜県の温泉の分布と特徴,温泉科学.52,106–113.
・三階衣子他(1970):岐阜県東濃地方の放射能泉について,温泉科学.21,104–120.
・下 道國他(2006):岐阜県の一温泉施設のラドン濃度と被爆線量試算,温泉科.5,104–120.

執筆者
古田 靖志
温泉研究者。下呂発温泉博物館 名誉館長。温泉科学の研究と教育普及活動に取り組む。
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